長崎地方裁判所 昭和40年(行ウ)9号 判決 1967年2月14日
原告 日立建機株式会社
被告 佐世保市長
主文
被告が原告に対し、昭和四〇年六月一〇日付の固定資産税納税通知書をもつてした昭和四〇年度の固定資産税の税額を金一四万七、八五〇円とする課税処分は取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立て
一、原告の申立て
主文同旨の判決を求める。
二、被告の申立て
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。
第二、当事者双方の主張
一、原告の請求原因
(一)、原告は、各種建設機械の販売を、その営業の目的とする会社であるところ、被告は、原告が昭和三九年一月一日以前に訴外大町建設株式会社および有限会社西九州開発重機(以下単に右両会社を各訴外会社という)、いずれも、その代金完済まで所有権を留保する特約で売り渡したトラクターシヨベル二台(以下単に本件物件という)につき昭和四〇年六月一〇日付納税通知書をもつて原告に対し、その税額を金一四万七、八五〇円とする昭和四〇年度の固定資産税の賦課処分をした。
(二)、しかして、被告が右処分をなした根拠とするところは、本件課税処分が昭和三九年度固定資産税の過年度賦課であつて、その賦課期日である昭和三九年一月一日当時、本件物件が佐世保市内に存在し、各訴外会社において、それらをいずれも自己の事業の用に供し、かつ会社帳簿処理上、資産として計上し、その減価償却額を、法人税の所得の計算上、必要経費として算入していること、および本件物件の所有者が原告であるということによるものであつた。
(三)、そこで、原告は、昭和四〇年六月一六日被告に対し右処分を不服として異議の申立てをなしたところ、被告は、同年七月一六日付をもつて右異議申立てを棄却し、その頃これを原告に通知した。
(四)、しかしながら、原告は地方税法第三四三条第一項第三項にいうところの償却資産の所有者にはあたらないから、本件課税処分は違法である。すなわち、
(1)、固定資産税は、収益税としての性質を有するものであつて、その賦課対象たる物件を使用に供して得られた収益のうちから支払われることを予想して、その課税額が定められているのであるから、収益者負担の原則に立脚して課税されるべきものであるところ、本件物件は、いずれも原告が商品として各訴外会社に売り渡し、各訴外会社において買受けと同時に、それらを自己の占有支配下におき、それらを自己の事業の用に供し、収益を取得していたものであつて、原告の所有権留保は単に、その代金債権を確保する手段にすぎず、民法上の所有権はともかく、本件物件は原告にとつては商品であるに止まるものであるから、原告に対し本件物件の固定資産税を課することは、固定資産税の収益者負担の原則に反する。(固定資産税賦課の関係においては、各訴外会社をもつてその所有者として、これに、その納税義務を課すべきである。)
(2)、所得税、法人税は、実質課税の原則に則つて収益を現実に享受する者に賦課され、単なる名義人には課税されない。これは租税負担の公平の目的からなされた当然の措置であるが固定資産税についても、租税の負担は公平になされるべきこと勿論であるから、実質課税の原則に従つて課税されるべきである。このことは、地方税法上、固定資産税については、当該資産の所有者に課するのを原則としながらも、当該資産の使用収益の実質に着目し、使用収益が第三者によつてなされ、所有者が単なる名義人にすぎない場合、使用収益者を所有者とみなし、この者に納税義務を負わせていて、各種の例外があることからしても明らかである。したがつて、本件のような場合でも、本件物件を使用し、それによる収益を現実に享受している者が各訴外会社であること前記のとおりである以上、実質課税の原則からしても、本件課税処分は、各訴外会社に対してこそなされるべきであつて、単なる形式上の所有名義人にすぎない原告に対し賦課されるべきものではない。
(3)、ところで、法人税法では、本来償却資産に対し、減価償却をなし、その償却額を、損金又は必要経費として、法人税の所得計算から控除し得る者は、その本質上当該資産の所有者であるべきものであるところ、割賦又は延払条件買入資産等については、買主が所有権をいまだ取得していないのにかかわらず、買主を所有者とみなし、減価償却を認めるとともに、それを右所得計算上必要経費に算入することを是認していて、償却資産の所有者として取扱う者を、民法上の所有者に限定してはいない。
しかして、地方税法では、法人税法上、右のような計算を認められた物件を償却資産であると定め、法人税法との結び付きを明示しているとともに、固定資産税は、法人税の納税義務者が、法人税額を不当に減少させる目的で償却資産を過大に評価しようとする弊を防止し、法人税賦課の適正を期するという自動抑制的役割をもまた有しているのであるから、固定資産税の課税主体については、法人税法と運用解釈を一にしなければならないものである。そうしてみると、本件物件について、法人税の関係で所有者としての取扱いを受けているのは各訴外会社である以上、固定資産税の関係でもまた同様に取り扱われなければならないものである。
(4)、仮りに原告が本件固定資産税の納税義務者であるとすれば、その税金は、本件物件の販売利益の中から支払われなければならず、原告は、本件物件の販売によつて得た利益については法人税を賦課されるのであるから、同一商品について、法人税と固定資産税とを二重に賦課されるという不合理な結果となるし、本件の如き課税処分は全国的に異例であつて、これのみをもつてしても、本件課税処分が違法であることが明瞭である。
(五)、以上のとおりであつて、原告は、固定資産税の関係においては、本件物件の所有者としての実質を有しないものであるから、原告をその所有者としてなされた、原告に対する被告の本件課税処分は違法であつて、取り消されるべきものである。
(六)、それで、原告は本件課税処分の取消しを求めたため本訴請求におよぶ。
二、被告の答弁
(一)、請求原因のうち(一)ないし(三)の各事実はいずれも認める。
(二)、同(四)の主張は争う。すなわち
(1)、固定資産税が収益税であるとの原告の主張は独断であるが、仮りに原告所論のように収益税であるとしても、償却資産の所有者は、その物を自ら使用し収益する場合はもとより、これを他人に使用せしめる場合でも、その使用料等を収受し、間接に収益を得ているものであり、使用料等を収受していなくとも、それは、そのような収受し得べき利益を自ら任意に抛棄しているにすぎないのであるから、その所有者を、固定資産税の関係において所有者として取扱つても少しもさしつかえはなく、収益税の性格に反するものではない。
(2)、地方税法は、償却資産に対する固定資産税の納税義務者は当該償却資産の所有者であることを明定している。このことは、その資産を使用し収益している者が所有者以外の第三者であろうと、その使用権限が所有権に基づくものか、賃借権か、あるいはその他の使用権によるものであるかの如何を問わず、またその物を法人税あるいは所得税法上の償却資産として、その減価償却額を損金又は必要経費に算入し、その所得から控除している者が、所有者以外の第三者であろうと、そうしたことにかかわりなく、専らその償却資産の所有者をして納税義務を負担させるということにほかならないものであるところ、原告が本件物件を各訴外会社に販売するに当り代金完済まで所有権を留保していたこと、したがつて原告が本件物件の所有権を有するものであることは原告の自ら主張するところであるから、本件固定資産税の納税義務者を原告であるとした本件課税処分には、なんらの違法はない。
(3)、さらに、法人税は国税であり、固定資産税は地方税であつて、それぞれその体系と目的を異にし、前者は法人の所得に対し、後者は固定資産税に対し、それぞれ賦課されるものであつて、その性格が異なつているのであるから原告主張のように、右両税が結果において、同一利益の中から支払われることになつても、二重課税の問題を生ずる余地はないし、原告が本件物件についての固定資産税の納税義務者とされ、その税金を納付したとしても、割賦販売契約には、売主が、右のような税金を納付した場合、買主の方で、その税額を負担する旨の約定が存するのが通例であるから、原告が同一の商品について、法人税と固定資産税の納税義務者とされても原告に、不当な不利益をおよぼすということはない。
(4)、原告は、本件課税処分は全国的に異例の処分であるというけれども、これは自治省の行政指導に基づいてなされたものであつて、決して異例なものではない。
(5)、仮りに原告が納税義務者でないとすれば、残るのは各訴外会社であるが、これらは本件物件の所有者ではないから、これに賦課することはできない。そうすると償却資産として固定資産税賦課対象であることに疑いのない本件物件が、佐世保市内で稼働されているにもかかわらず、同市はこれに固定資産税を賦課するを得ない結果となり、その不当なことは条理に照らし明らかであるから、このような見地からしても、原告を本件の納税義務者となさざるをえないものである。
第三、当事者双方の証拠<省略>
理由
一、本件物件が所有権留保の特約付で原告から各訴外会社に割賦販売されたこと、昭和三九年一月一日当時、本件物件が佐世保市内に存在し、各訴外会社がいずれもこれを自己の事業の用に供し、かつ会計帳簿処理上資産として計上し、法人税の所得の計算上、その減価償却額を必要経費に算入していたこと、被告が本件物件につき、原告に対し、その主張のような課税処分をしたこと、および右課税処分が、昭和三九年度固定資産税の過年度賦課であること、以上の各事実については、いずれも当事者間に争いがない。
二、右事実(なお「割賦買入にかかわる資産で、その割賦金が完済するまで所有権を移転しないものであつても、法人が占有して事業の用に供する場合、これを資産に計上したときは減価償却資産とする。」旨の国税庁の法人税基本通達一九一の三が存する)によると、本件物件が地方税法第三四一条第四号にいうところの償却資産(勿論、その物の所有者いかんによつては償却資産とならないこと後記のとおりであるからその主体を離れて償却資産であるか否かを問うことはできないが、固定資産税賦課対象としての償却資産であるか否かは、主体を問うことなく決定することが可能であり、この場合主体如何はその固定資産税を何人に賦課すべきであるかという問題となる。)に該当することが明らかである。
三、ところで、地方税法は、固定資産税は固定資産の所有者に課すること(同法第三四三条第一項)、償却資産の所有者とは償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいうものであること(同法条第三項)、その登録は納税義務者の申告によつてなされるべきものであること(同法第三八三条第一項)を定めているところ、証人東川安男の証言によると、本件物件については、申告期日の末日である昭和三九年一月末日までの間に納税義務者からその申告がなされず、佐世保市の償却資産課税台帳に登録されている者がなかつたため、同市固定資産税係員においてこれが実態調査をなした結果、原告がこれに対する所有権を留保して割賦販売している事実を確認したので、原告を本件物件の所有者であると認め、職権で右台帳に登録し、本件課税処分がなされたことが認められ、これに反する証拠はない。そうしてみると、固定資産税の賦課が、右のように台帳課税主義を採用している以上、実質課税主義を排除しているものとして、償却資産の実質的な所有者が何人であるかを問わず右台帳に登録されている者、本件では原告をもつて所有者となし、これに賦課すべきであるかの如くである。しかしながら、同法第三八三条第一項によると、固定資産税の納税義務を負う償却資産の所有者は、自治省令の定めるところにより、一定事項を当該償却資産の所在地の市町村長に申告しなければならない旨を規定し、納税義務者の自らの申告によつて、右台帳が毎年調製されるべきであることを定めている。この点から考えると、申告と右台帳への登録の段階においては、当該償却資産の実質的所有者と、右台帳上の所有者とは、当然一致するはずであり、この段階においては表見主義の支配する余地のないことが明らかである。
したがつて、固定資産税の賦課が、台帳課税で表見主義を採用しているからといつて、本件の如く申告がなく、被告が職権調査によつて原告を所有者とした上、職権で償却資産台帳に登録し、それに基づき、原告に本件課税処分をしたことの当否が争われている場合、台帳上の所有者が原告として登録されていることの一事をもつて、その実質にかかわりなく、原告をその所有者として固定資産税を課するという表見主義を貫くことは相当でない。すなわち、このような場合、誰を所有者として右台帳に登録すべきかの問題、換言すれば、誰に課税すべきかの前提問題であるから、表見主義というものが、前記のとおり、誰に課税すべきかを決するについて、右台帳の記載によるということにほかならない以上、本件の判断について、右表見主義を採用していることは、特段の意味を持つものではない。
ところで、わが国の租税が、租税法律主義によつていることは、憲法第八四条によつて明らかであるところ、租税法律主義の一つの法意は、何人を納税義務者とするかは、法律によつて定めるところによるとすることにあることが明らかである。したがつて、右のように地方税法が、固定資産税の納税義務者を、その資産の所有者とすると定めている以上、所有者以外の者に固定資産税を賦課するためには、法律にその旨の明文の規定を必要とし、単なる運用解釈によつて、所有者以外の者にこれを賦課し得ないことは明らかである。しかし、同法は、前記のように償却資産の所有者とは償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいうものであることのみを定めていて、本件のように、所有権留保の割賦販売の場合における右課税台帳に登録されるべき所有者とは誰であるかということについては直接には規定していない。したがつて、右の登録されるべき所有者を、民法上の所有権者、すなわち売主とするか又は、その所有の実質に着目して、現実に占有支配し、収益している者、すなわち買主とするかは、なお解釈の余地のあるところであつて、その解釈の結果、そのいずれかを右の登録されるべき所有者であると決したとしても、これを目して所有者以外の者に右税の納付義務を負わせたものとはとうていなしえず租税法律主義に些さかも反するものではないものというべきである。
四、そこで、本件のように所有権を留保して割賦販売された物件が、その買主のために償却資産である場合、固定資産税賦課の関係において、その所有者とは、売主、買主のうちいずれであるかについて判断する。
(一)、償却資産に賦課される固定資産税は、その賦課制度の歴史的沿革、目的等に照らし、投下資本の生み出す収益を財産課税の形態によつて、捕捉したものと解すべきであり、さらに租税一般の主たる目的は財政調達にあるのであるから、償却資産に課される固定資産税が、その租税負担を、その資産の処分によつて賄うことがあつては、その税源を失うこととなり、他方では、生産手段(投下資本)を奪うことともなつて、経済機構を破壊に導く結果ともなりかねないのである。
それ故、その租税負担は、当該償却資産のもたらす収益によつて賄なわれるものでなければならないことはけだし当然であつて、課税の前提としての償却資産の評価そのものが、その資産の収益力の評価にほかならないことなどに思いをいたすとき固定資産税は本来いわゆる収益税の部類に属するものと解するのを相当とする。
(二)、租税は、国又は地方公共団体が、課税権に基づき、一般的標準により、その構成員に賦課する金銭給付であつて、すべての人から、その担税力に応じて公平に賦課徴収されなければならないことは当然であるから、所得税法第一二条、法人税法第一一条の如き実質課税の原則を明示した規定が、地方税法に存しないからといつて、地方税法が実質課税の支配する分野ではないと解することは妥当ではない。これを地方税法の規定についてみるに、
(1)、同法第一四条の一八は、納税義務者が滞納をして、その滞納額が、その義務者の財産を処分した分で不足する場合、右義務者が第三者に譲渡担保として譲渡した財産から、その不足額を徴収できることを規定している。ところで、民法上譲渡担保においては、いかなる場合においても、少くとも外形的には所有権は譲受人に移転しているものと解すべきものであるところ、それにもかかわらず、右地方税法の規定が、譲渡人からの租税徴収を、その物件について認めたのは、右物件の譲渡が、債権担保の目的でなされたものにすぎず、したがつて、実質的にはそれが譲渡人の所有に属するものであることを認めたからにほかならない。
(2)、同法第三四一条第一項は、質権者を、所有者ではないにもかかわらず、所有者と同等に取り扱い、固定資産税の納税義務者となしているが、これは、不動産質権が、目的物を占有支配し、収益することを本質とする担保物件であることを理由とするものである。
(3)、同法条第四項はまた、固定資産の所有者の所在が、災害等の事由によつて不明の場合、その資産の使用者を所有者と同視し、その者に固定資産税を課することができる旨を定めているが、これは、使用者が、その資産の利用によつて利益を得ているわけであるから、課税の衡平を保持する必要上そのように定められたものである。
(4)、同条第五項においてもまた、所有者ではない単なる使用者を所有者と同等に取り扱つているが、その理由とするところのものは、右(3)と同じ趣旨に出でたものであるとともに、通常その使用者が、当該農地の売渡しの相手方となる、すなわち、将来におけるその所有者たる地位にあるがためである。
(5)、さらに、同法条第八項は、信託会社が、製造会社等より、償却資産となり得る資産の信託を受け、これを企業者に将来の譲渡を条件として賃貸している場合、信託会社は、これらの資産を自己の事業の用に供しているのであるから、本来、その資産に対する固定資産税は、その所有者である信託会社に課税されるべきものであるところ、その納税義務者を借受人としている。これは、借受人が、その資産の代金を一時に支払うことが困難であるため、金融の必要上、信託会社が形式的に所有権を取得し、代金の完済を俟つて、借受人に所有権を移転すべきことが約定され、その資産の使用収益は、実質的には借受人が行つており、その立場は実質上所有者となんら異るところはないためにほかならない。
(三)、以上の諸規定は、実質課税の立場に立たなければ解決し得ないものであつて、法人税法、所得税法のように、実質課税の明文こそ存在しないけれども、地方税法においても、実質課税の原則は貫かれているものと解するのを相当とするところ、割賦販売において、売主が所有権を留保する理は、その代金債権の確保という経済目的を確実に達成しようということにあるのであつて、売主の所有権は単なる形式に過ぎず、その物件の所有権は実質的には買主に移転し、その使用収益の権能を排他的に取得するに至るのもこの故である。また、割賦販売法においても、売主の解約条件を一般の売買より厳格に解して制限を付し、売主の所有権取得を確実ならしめる規定を設けるなどしていて、実質的には買受人が所有者としての実体を取得したものとされているものとみるほかない。したがつて、これらの実質に着目して考えるとき、この買受人の地位は前記(二)で述べた各場合と類似した関係にあり、他に公益の目的等特段の理由なき限り、租税負担公平の見地からしてもその所有者についての解釈は、右各場合と同じくすべきであると考えざるをえないのである。
(四)、さらに、償却資産は、その使用によつて、企業収益を生み出すものではあるけれども、使用に応じ、漸次その機能を喪失して行くものであるから、その機能喪失による減損額は、企業収益の費用と考えられるべきものであるにかかわらず、物理的に、その構成部分、あるいは、その喪失部分が製品に転化するものではなく、生産された物の原価の中に化体されないから、物的にその価格を件上する方法がなく、費用対応の原則から一定額の償却額を定め、それを必要経費として計上し会計処理をなしているものである。したがつて、償却資産が第三者の所有であつて、それを自己の生産手段に供している場合、有償であればその費用が収益に対応する費用であるから、その資産の費用による減損額は、使用者にとつては、なんら意味がなく、使用者に減価償却をなさしめる理由は全く存在せず、したがつて、それは使用者にとつては償却資産ではなく、この場合減価償却を必要とするものは第三者であつて、第三者にとつては償却資産となること明らかである。このように、償却資産に対し減価償却費を計上すべき者は、その資産の所有者でなければならないとともに、また所有者であつたとしても、その資産、すなわち、物を生産手段に供する客体として所有していない以上、例えば販売すべき商品として所有しているが如き場合、その減損額は、企業収益の費用となるものでないことは自明の理であつて、その所有者にとつては、それは、減価償却をすべき償却資産ではなくして、単なる棚卸資産たるにすぎない。
このように所有者でなければ本来認めるべきではない減価償却費の計上を、所有権者ではない割賦販売の買主に認めた前記基本通達は、前記(三)で述べたように、その買主の物件に対する支配の実体に着目し法人税法上、当該償却資産の所有者として取扱うことを認容したものにほかならないところ、固定資産税における課税客体としての償却資産は、地方税法第三四一条第四号によれば、「土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産で、その減価償却額は減価償却費が法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費に算入されるもの」とされていて、前記のように償却資産台帳に登録されるべき者は、その所有者とされているから、これらを総合すると、所有権留保の割賦販売にかかる物件について、それを固定資産賦課物件としての償却資産とするためには、買主においてまず自己の資産として会計帳簿に計上しなければならないものである。それ故、右買主においてこれを資産として計上していない以上、いかに買主の事業の用に供されている物件であつたとしても、法人税法上、その所得の計算において、減価償却費を必要経費に算入することが認められないのであるから、固定資産税賦課対象の償却資産ともなり得ないことが明らかである。このように、法人税法の処理規定の上に構成された地方税法の償却資産の規定の態様、さらには売主を償却資産の所有者と考えた場合、右のように全く自己の関与する余地のない買主の資産計上の如何によつて、その資産に対する固定資産税の納税義務の存否が左右されるにいたるという、租税負担公平の要請からする不当性、くわうるに、つぎの法解釈理論からする不合理性、すなわち、特定の法体系(本件の場合租税法体系)に属するある法律において、一つの概念が形成された場合、その法体系に属する他の法律において、同一用語のもとに相異なる意味内容が与えられると、その法体系の秩序は維持し得なくなり、混乱を招来するに至るものであるから、その概念は、その法体系においては一つに解され、定められ、通用されなければならないものである。これを本件についてみるに、法人税法では、償却資産の主体を買主であるとし、地方税法では、それを売主であるとするならば、その減価償却費を必要経費に算入することを認められるのは買主であり、売主はそれが認められないのにかかわらずすなわち所有者ではないのに、地方税法では所有者として固定資産税の納税義務者とされるという不合理な結果となる。これらの見地から、所有権留保の割賦販売にかかる償却資産について、法人税法上所有者を買主と定められた以上、地方税法においても同様に解釈され、かつ運用されなければならないものである。
(五)、以上述べきたつたところにより、おのずから明らかなように、租税法律主義と固定資産税の本質からして、償却資産である物件が、所有権を売主に留保されて割賦販売された場合、これについて償却資産課税台帳に登録されるべき者は買主であると解するのが相当である。
五、しかして、右割賦販売の場合、売主が本来その目的物の使用収益権を有するものではないことは前記のとおりであるから、収益し得べき利益を自ら任意に放棄しているにすぎないから収益税の性格に反するものではないとの被告の所論は理由がなく、償却資産の所有者に関する主張もまた採用の限りではない。また割賦販売契約に、売主が納付した固定資産税の税額と同一の額を買主において負担する旨の特約の存在を証するに足りる証拠はないばかりでなく、仮りにそのような事実があつたとしても、右判断になんら消長をおよぼすものではない。さらに本件課税処分が、自治省の行政指導によつてなされたものであり、かつ、異例とするに足りないことは、成立に争いのない乙第一号証によつて明らかであるが、そのような事実が存したからといつて右判断になんらの影響をおよぼすものではないこともまたいうまでもない。なお被告は、原告が納税義務者でないとすれば、賦課されるべき者が存在しないことになるというけれども、そのいわれのないことは、右(五)記載のとおりである。
六、そうすると、被告の本件固定資産税課税処分は、違法であつて、取り消されるべきものであるから、これが取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 桑原宗朝 原政俊 桑原昭熙)